義足と義手のリハビリテーション

切断のリハビリテーション医療

【前腕筋電義手】女性ユーザーの筋電義手

 

f:id:gisokutogishu:20201225224805p:plain

標準的な前腕筋電義手です。

ユーザーさんは子育て世代の女性で、能動義手も併用(フックもハンドも)しています。

仕事でも家でも義手をフル活用されています。筋電義手は主に休日に使っています。

断端が健側比83%で長めなところが特徴です。

断端が長いので、本来なら懸垂方法は顆上支持だけで十分です。

しかし、逆に断端が長いせいで断端をソケットの奥の方まで引っ張り込む必要があり、そのため吸着式を併用しています。

吸着はストッキングを用いて行っています。断端の軟部組織を寄せることで、軟部組織をソケットに沿わせてピッタリさせるのです。ここは分かりにくいところかもしれません。

断端が長い場合はシリコーンライナーを使ってピンロック懸垂にすることもできるのですが、この方の場合はピンロック懸垂にすると断端の先にピンの受け皿であるシャトルロックを入れなければならず、そうすると義手長が健側よりも長くなってしまうので断念しました。

今のソケットがこの方にとってのベストなソケット形状と懸垂方法だと考えています。

筋電ハンドは支給時、i-limbもbebionicも厚労省に認可されていませんでしたので選択肢にありませんでしたが、今後の作り直しで検討するかもしれません。

【義足アライメント】単純X線写真から見たスライダーの必要性

例えば内反膝や外反膝のように下肢のアライメントに変形を伴っている方で、ピンロック式の懸垂を選択される場合はスライダーというパーツを入れることをおすすめしています。

その理由の説明になるであろう単純X線写真を共有します。

f:id:gisokutogishu:20201221223913p:plain

本来シリコーンライナーはピンが脛骨の長軸と平行になるように装着します。しかし、それではなかなかピンがシャトルロックに命中しないことも多いと思います。

そのためユーザーはピンの位置を少しずらして(例えば上の写真では左側に向けて)シリコーンライナーを装着することになります。

しかし、上の写真の症例のように膝の内反変形が強いと、いくらシリコーンライナーの履き方を工夫しても限界というものがあります。

そのためスライダー(正式名称はスライド式クランプアダプター)というパーツを入れて全体のアライメントを整える必要が出てきます。

f:id:gisokutogishu:20201221233251j:plain

スライド式クランプアダプター(オットーボック)http://www.p.ottobock.jp/pdf/gisoku04.pdf

これがスライダーなしで足部を設置すると(脛骨の長軸上に足部を設置すると)足部がソケットに対して内側に来すぎてしまい、歩いたときにまったく安定しない(膝が外側に倒れる)義足となってしまいます。

スライダーを入れなくても吸着式の懸垂方法を選択することで解決できたりするのですが、このユーザーさんはまだ仮義足だったのでピンロック式にしています。断端のボリューム変化が激しい仮義足の段階では吸着式は向きません。本義足では吸着式にするつもりでいます。このあたりの話は書き出すと長くなるのでこの辺でやめておきます。

スライダーの必要性、何となく分かりましたでしょうか?

特に仮義足ではアライメントの調整がしょっちゅうだと思いますので、できるだけスライダーを入れることをおすすめします。

その方が分かりやすいですし、調整の幅が広がります。本義足に向けてアライメントを決めていくのも仮義足の役割です。

義足はアライメントの話が一番分かりづらくて難しいんじゃないかと思っています。少しでも皆さんの理解のお役に立てるといいのですが。

gisokutogishu.hatenablog.com

gisokutogishu.hatenablog.com

【まとめ】義足の処方例

義足の処方例の記事が溜まってきて、このブログ内でどこに行ったかわからなくなりつつあるので、こちらにまとめておきます(随時更新していきます)

仮義足の処方例になります。

gisokutogishu.hatenablog.com

gisokutogishu.hatenablog.com

gisokutogishu.hatenablog.com

gisokutogishu.hatenablog.com

gisokutogishu.hatenablog.com

gisokutogishu.hatenablog.com

gisokutogishu.hatenablog.com

gisokutogishu.hatenablog.com

gisokutogishu.hatenablog.com

gisokutogishu.hatenablog.com

gisokutogishu.hatenablog.com

gisokutogishu.hatenablog.com

gisokutogishu.hatenablog.com

【義足処方例】大腿切断 K2〜3レベル NK6とプラグつきローテータ

大腿義足の処方例です。仮義足です。

f:id:gisokutogishu:20201218230212p:plain

  • 切断原因:糖尿病
  • 神経障害合併
  • 視力障害合併
  • 健側に糖尿病足変形あり
  • 活動レベル:K2〜3レベル

活動レベルは微妙で、まだ若いので本来K3レベル相当なのですが、合併症がいろいろあるためにK2レベルとも考えられます。

処方のポイントです。

50代で判断力と基本的な身体能力はあるのでピンロック式のシリコーンライナーを選択しています。

田舎暮らしで悪路も歩かれるということでしたので膝継手は手動で固定膝にできるNK-6+Lにしました。
ナブテスコ株式会社|Mobility Assist|義肢装具

足部は低〜中活動者向けで当院でよく処方しているアシュアです。
フレックスフット アシュア(完成用部品) | オズール製品・ソリューションカタログ

ターンテーブルはねじれの動きを出してくれるプラグつきロテータ(LAPOC)を採用しました。今回初めてこのターンテーブルを処方しましたが、方向転換がしやすくなったと患者さんからは好評でした。

www.imasengiken.co.jp

靴は糖尿病の方によく購入していただいているあゆみメディカルです。
Re-Lifeサポート02 7E | 公式 あゆみシューズ通販

糖尿病を原因にして切断された方は神経障害が必発で、それによる健側の足変形も必発と考えてください。

もちろんこの症例にも健側足部に対して足底装具(インソール)を処方しています。

退院時には介護保険も導入し、少し長めの約4ヶ月の入院リハビリテーションの後、自宅退院されました。

参考になれば幸いです。

gisokutogishu.hatenablog.com

骨直結型義足(Osseointegrated prosthesis)

骨直結型義足とは

骨直結(Osseointegration)というのは、切断術後の断端の骨の中にインプラントを挿入し、そこに義足を接続することを指します。このような義足のことを骨直結型義足(Osseointegrated prosthesis)と呼びます。

歯科で行われるインプラントを想像してみてください。それの義足バージョンです。

装着時の快適さはソケットタイプの通常の義足より優れています。

f:id:gisokutogishu:20201215000302j:plain

https://integrum.se/opra-implant-system/are-you-a-potential-candidate/transfemoral-above-knee-amputations/

f:id:gisokutogishu:20201214223354p:plain

https://www.osseointegration.eu/what-osseointegration

www.youtube.com

手術手技の手順は人工股関節全置換術の時にステムを挿入する手順と似ています。

手術は2回に分けて行われます。一回目では受け皿になるインプラントを挿入し、6〜8週間かけてインプラントが骨に十分くっつくのを待ちます。その後、義足を接続するためのアタッチメントを取り付けるための2回目の手術を行います。

そのためこの治療にかかる期間は長期間になります。

この義足を開発したのはスウェーデンの整形外科医で歯のインプラント開発者でもあるPer-Ingvar Brånemark先生です。

ja.wikipedia.org

ちなみにこの先生の息子さんも整形外科医で骨直結型義足を研究されています。

www.researchgate.net

骨直結型義足は今のところ欧米やオーストラリア等で使われていますが、残念ながら日本ではこのインプラントは医療機材として認可されていません。そのためこの手術を日本で受けることはできません。

参考までに、通常の義足は断端にソケットを装着することで身体と義足を一体化させる仕組みになっています。ソケットというのは下の写真の黒い部分です。

f:id:gisokutogishu:20201215224632p:plain

そのため断端とソケットとの適合が重要になるわけですが、ソケットが合わない(適合不良)せいで痛みや皮膚トラブルといった問題がしばしば起こります。

そこで開発されたのが骨直結型義足というわけです。アイデアはとても理にかなっていると思います。

骨直結型義足のメリット

  • ソケットの適合不良に悩まされることがありません。
  • 股関節や膝関節の可動域が良いです。関節の動きがソケットに邪魔されないので、動きが制限されません。
  • 座ったときもソケットに邪魔されないのでユーザーは楽です。
  • 義足の着脱が容易です。
  • 義足と身体の一体感が増すので感覚のフィードバックも得られやすいと言われています。

下の写真のように大腿骨近位部のインプラント組み合わせることで断端が短くて通常なら股義足の適応になってしまいそうな症例も大腿義足として断端を活かすことができます。

f:id:gisokutogishu:20201214233328p:plain

https://josr-online.biomedcentral.com/articles/10.1186/s13018-016-0348-3

↑すごい手術です。

骨直結型義足のデメリット

  • 感染症の問題が危惧されます。通常の断端は皮膚が縫合されて閉じていますのでめったなことでは内部の深いところの感染は起こしません。しかし、骨直結型の場合は骨の中にインプラントを埋め込んでいるので、使っているうちに外界から細菌が侵入するリスクがあります。

    骨直結型義足の細菌感染に関する論文がいくつか出ています。致命的になる細菌感染は少ないという論文もあれば、時間の経過とともに感染リスクは高まるので注意すべきとする論文もあり見解は一定していません。

    pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

    オランダとオーストラリアの施設で86例の骨直結型大腿義足患者を対象に最低2年間フォローアップされた研究。

    抗生剤で治癒する程度の軽度の感染のリスクはあるものの、インプランを抜去しなければらないほどの感染は稀であった。

    pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

    スウェーデンの施設で96例の骨直結型大腿義足患者を対象とした研究。

    インプラントに関連した骨髄炎と診断された患者は16例で、10年の累積リスクは20%(95%CI 0.12-0.33)であった。骨髄炎のために10例のインプラントが抜去され、10年の累積リスクは9%(95%CI 0.04-0.20)であった。

  • もう一つは緩みの問題です。人工関節でも長期に使っていると挿入したインプラントが緩んできて痛みの原因になったり、そのせいでインプラントを交換しなければいけなくなったりします。同じことが骨直結型義足でも起きると考えられます。 
  • このために新たに手術を受けなければならないこともデメリットでしょうか。数ヶ月単位で治療期間が必要になりますし、手術に伴う感染症のような合併症が生じるリスクが高まるという問題もあります。

この手術の適応は基本的に感染リスクの低い外傷症例ですが、糖尿病やASOといった血管原性切断の症例でも適応があると主張している研究者もいます。

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

5例のケースシリーズなのでなんとも言えません。

しかしながら、個人的にはインプラントの感染の問題やゆるみの問題がやはり気になるところで、この術式を積極的に支持したいという考えに今のところなれていません。

今後の動向に注目したいところです。

【義足処方例】下腿切断で断端が長い場合の義足 スライダーの活用

f:id:gisokutogishu:20201209223134p:plain

  • 70代女性
  • 活動レベル:K3
  • 長断端(70%)

断端が長い場合に困ることは2つあります。

1つ目は足部パーツを設置するスペースが狭いということです。選択できる足部パーツが限られてしまいます。

この症例のように低床足部しか入らなくなります。

2つ目はアライメントを整えるのが難しくなるということです。

ピンロック式の場合はスライダーというパーツを入れなければいけなくなります。

ピンロック式の場合、断端が長いほどピン先をシャトルロックに挿入する向きの正確さを求められます。

例えるなら弓を引いて遠くにある的を矢で射なければいけないイメージです。

そのためシャトルロック(的)は自ずと断端の骨の長軸方向に合わせて設置する必要があります。

普通はシャトルロックの直下に足部を取り付けます。

しかし、ここで困るのがそのままの位置で足部を取り付けてしまうとアライメントが悪くてまともに歩けなくなるということです(膝が外側に大きく振られます)。

そのため横にずらして足部を取り付けて荷重線が適切な位置に落ちるように設定する必要があります。

このときに必要になるパーツがスライダー(スライド式アダプター)というわけです。

今回紹介した症例は長断端かつ膝が内反(O脚)していたため余計にスライダーの必要性が高かったです。

 

まとめると、長断端かつ内反膝の今回の症例に対しては、低床の足部を選択し、スライダーを入れたことがポイントになります。

 

gisokutogishu.hatenablog.com