骨直結型義足とは
骨直結(Osseointegration)というのは、切断術後の断端の骨の中にインプラントを挿入し、そこに義足を接続することを指します。このような義足のことを骨直結型義足(Osseointegrated prosthesis)と呼びます。
歯科で行われるインプラントを想像してみてください。それの義足バージョンです。
装着時の快適さはソケットタイプの通常の義足より優れています。
手術手技の手順は人工股関節全置換術の時にステムを挿入する手順と似ています。
手術は2回に分けて行われます。一回目では受け皿になるインプラントを挿入し、6〜8週間かけてインプラントが骨に十分くっつくのを待ちます。その後、義足を接続するためのアタッチメントを取り付けるための2回目の手術を行います。
そのためこの治療にかかる期間は長期間になります。
この義足を開発したのはスウェーデンの整形外科医で歯のインプラント開発者でもあるPer-Ingvar Brånemark先生です。
ちなみにこの先生の息子さんも整形外科医で骨直結型義足を研究されています。
骨直結型義足は今のところ欧米やオーストラリア等で使われていますが、残念ながら日本ではこのインプラントは医療機材として認可されていません。そのためこの手術を日本で受けることはできません。
参考までに、通常の義足は断端にソケットを装着することで身体と義足を一体化させる仕組みになっています。ソケットというのは下の写真の黒い部分です。
そのため断端とソケットとの適合が重要になるわけですが、ソケットが合わない(適合不良)せいで痛みや皮膚トラブルといった問題がしばしば起こります。
そこで開発されたのが骨直結型義足というわけです。アイデアはとても理にかなっていると思います。
骨直結型義足のメリット
- ソケットの適合不良に悩まされることがありません。
- 股関節や膝関節の可動域が良いです。関節の動きがソケットに邪魔されないので、動きが制限されません。
- 座ったときもソケットに邪魔されないのでユーザーは楽です。
- 義足の着脱が容易です。
- 義足と身体の一体感が増すので感覚のフィードバックも得られやすいと言われています。
下の写真のように大腿骨近位部のインプラント組み合わせることで断端が短くて通常なら股義足の適応になってしまいそうな症例も大腿義足として断端を活かすことができます。
↑すごい手術です。
骨直結型義足のデメリット
- 感染症の問題が危惧されます。通常の断端は皮膚が縫合されて閉じていますのでめったなことでは内部の深いところの感染は起こしません。しかし、骨直結型の場合は骨の中にインプラントを埋め込んでいるので、使っているうちに外界から細菌が侵入するリスクがあります。
骨直結型義足の細菌感染に関する論文がいくつか出ています。致命的になる細菌感染は少ないという論文もあれば、時間の経過とともに感染リスクは高まるので注意すべきとする論文もあり見解は一定していません。オランダとオーストラリアの施設で86例の骨直結型大腿義足患者を対象に最低2年間フォローアップされた研究。
抗生剤で治癒する程度の軽度の感染のリスクはあるものの、インプランを抜去しなければらないほどの感染は稀であった。
スウェーデンの施設で96例の骨直結型大腿義足患者を対象とした研究。
インプラントに関連した骨髄炎と診断された患者は16例で、10年の累積リスクは20%(95%CI 0.12-0.33)であった。骨髄炎のために10例のインプラントが抜去され、10年の累積リスクは9%(95%CI 0.04-0.20)であった。
- もう一つは緩みの問題です。人工関節でも長期に使っていると挿入したインプラントが緩んできて痛みの原因になったり、そのせいでインプラントを交換しなければいけなくなったりします。同じことが骨直結型義足でも起きると考えられます。
- このために新たに手術を受けなければならないこともデメリットでしょうか。数ヶ月単位で治療期間が必要になりますし、手術に伴う感染症のような合併症が生じるリスクが高まるという問題もあります。
この手術の適応は基本的に感染リスクの低い外傷症例ですが、糖尿病やASOといった血管原性切断の症例でも適応があると主張している研究者もいます。
5例のケースシリーズなのでなんとも言えません。
しかしながら、個人的にはインプラントの感染の問題やゆるみの問題がやはり気になるところで、この術式を積極的に支持したいという考えに今のところなれていません。
今後の動向に注目したいところです。