仮義足処方例
- 活動レベル:K3
- 糖尿病なし
- 懸垂方法:ピンロック式
- シリコーンライナー:デルモウェーブ
- 足部:アシュア(オズール)
- 足底装具を治療用装具として処方(健側足部に扁平足があったため)
- 靴:Re-Lifeサポート02 7E は自費購入
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約3ヶ月の入院リハビリテーションの後、独歩で退院(目標移動能力獲得)
仮義足処方例
約3ヶ月の入院リハビリテーションの後、独歩で退院(目標移動能力獲得)
認知症は義足の適応を難しくする要因の一つです。
なぜなら義足を自分で管理する(自己管理)ことができなくなるからです。
ライナーをいつも正しく装着するとか、義足の向きを間違わずに履くとか、認知症の方を見たことがない人には想像がつかないような問題に直面します。
しかし、認知症と言ってもその程度は様々です。
どの程度までの認知症なら義足の処方ができるのか?
はっきりとした指標はないのですが、先日は長谷川式スケール(HDS-R)で18点の方に義足を処方しました。減点項目は見当識、逆唱、物品再生、語想起でした。
分かりやすく言うと、教えたことをすぐに忘れてしまうという症状でした。リハビリ中に指導してその時分かったとなっても、翌日になったら忘れていてもう一度同じことを説明するという状態です。
こうなってくると複雑な手順を身に着けてもらうのは不可能です。そのため、義足を処方するにあたりできるだけシンプルに使ってもらえるような処方の工夫をしました。
以前に紹介したこともあるこの義足はそのような認知症のある方に処方した義足です。
処方の工夫としては
にしたことです。
キスキット懸垂はピンロック式と違ってピン先がシャトルロックの中に入らない(義足が履けない)というトラブルがありません。
ライナーを履く向きもピンロック式ほどシビアではありません。
キスキット懸垂なら座って義足を装着することができます(ピンロック式は立ち上がって義足を装着します)。
キスキット懸垂の処方例:
膝継手ですが、認知症のある方が遊動膝継手を使いこなすのは難しいと思います。
遊動膝継手を使いこなすためには身体だけでなく、認知面での能力も要求されるからです。
固定膝継手にしておいたほうが無難です。
今回紹介した義足を履いているユーザーさんは固定膝継手ですが、屋外をT杖で一人で歩いています。高齢ですが電車も一人で乗っています。
義足の管理も自分でできています。
先日は本義足を申請してソケット交換をされました。
一度だけ膝継手をロックし忘れて立とうとして転倒したそうですが、今もこのタイプの義足で元気に過ごされています。
同じ認知症でも、様々な日常生活場面で介助が必要なくらいの認知症だと、さすがに義足の適応は厳しいと言わざるを得ません。
しかし、家族のサポートがあって義足の着脱を手伝ってくれる、断端の管理をしてくれるといった条件がそろえば適応になってくる場合もあります。
退院後のことも考えつつですが、できるだけ義足が処方できないか可能性を探るというスタンスで切断患者さんを診ていただければと思います。
仮義足処方例
しばらく前の症例です。
上肢切断に対しては能動義手(仮義手)を処方しています。
このような症例の懸垂方法はピンロック式がいいでしょう。
PTBカフベルト懸垂はベルトを手で留めねばならず、上肢切断を合併している場合には選択しづらいです。
シリコーンライナーはいつものデルモウェーブです。本義足ではデルモウェーブではなく、ウェーブなしのデルモになっています。
足部はこの時オットーボックの1E56アクションを選択しました。両下腿切断なので足元はできるだけグラグラしない安定性の高い足部を選択したほうがいいと考え、低床かつ硬めの足部であるアクションを選択しました。
実はアクションは実はこれっきり処方していません。この症例は本義足前にいろいろな足部を試されました。
キンテラやプロフレックスLPも試したのですが、値段に見合うメリットを感じることができず、最終的にはオットーボックのトライアスを自治体から支給してもらっています。
トライアスはプロフレックスLPよりも低活動向けの足部ですがこれで十分だそうです。ご本人は中活動の方です。
両下腿切断においても足部パーツはユーザーの活動レベルに応じて選べばいいと思いますが、あまり柔らかい足部を選択してしまうとバランスが取りづらくなるので要注意です。
低活動な方には低床足部がおすすめです。例えばテリオン(ソフト)です。Jフットもおすすめです。
高活動な方であれば、わりと片側下腿切断と同じ考え方で足部を選択しても問題ないと思います。タレオやプロフレックスのような足部もありだと思います。
サイバスロンという義肢を装着した状態で日常生活のパフォーマンスを競う大会がスイスで行われました。
この大会は義肢部門だけでなく電動車いすやブレイン・マシン・インターフェース部門もあります。
最先端の技術がヒトの生活にどれくらい役立てるかを競う大会とも言えます。
私は義足と義手に注目して見ていたのですが、とても興味深い大会でした。
義手部門は電動義手ではなく能動義手が勝っていました。決められたタスクを速く正確にこなすのはまだ能動義手に分があるようでした。
義足部門は日本から私が注目しているBionicMが出場しました。
こちらの結果も興味深かったです。
優勝したのはコンピュータ制御膝継手でも電動膝継手でもなく、古くからある機械式の膝継手でした。
ただし、タイムを優先するあまり義足の膝継手をあえて使っていない場面が目立ち、その姿には違和感がありました。
2位のチームはオットーボックのGeniumという日本で手に入る最も優れたコンピュータ制御膝継手を使っていました。
しかし、こちらのユーザーも物をまたぐ時や階段を登るときに足を大股に開きぶん回すように動いててその姿には違和感を感じました。しかし、坂道を下る時や階段を下りる時はさすがの安定性とスピードでした。
一方、BionicMのチームはタイムこそ遅かったものの、またぎ動作や階段の登りをちゃんと足を交互に出して移動しており、より健常者に近い動きを再現していて自然な動きができているという印象でした。これはユーザーの努力によるところも大きかったのではないかと思います。
BionicMのサイバスロンでの様子はいい意味で期待を裏切るものでした。今後の開発の進展と製品発売に期待したいと思います。
義足ユーザー(切断者)は自身の体重を管理しておくことが大切です。
なぜかと言うと、体重が断端の大きさを間接的に示す数少ない指標の一つだからです。
断端の大きさはソケットとのフィッティング(適合)に影響します。
私の感覚では2〜3kgくらいの増減なら断端袋やソケットの修正でなんとかなるけど、5kg増えたり減ったりするとソケットを作り直さざるを得なくなってくると思います。
断端の周径を自分で測ってもいいのですが、退院後もそんなことをする切断者はいません。
自分で簡単にできるのも大きいです。面倒なことは大抵続けられなくなります。
そのため、私は仮義足リハビリテーションで入院している時から患者さんに体重測定を習慣化するよう促しています。外来通院に移行してからも診察時には患者さんに体重を聞いています。
義肢装具士も何となく体重増えたよね?減ったよね?と聞くのではなく体重は今何キロですか?と数字で聞くようにしたほうがいいです。
糖尿病の患者さんにとっても体重の管理は血糖値の管理にもつながりますので有用だと思います。糖尿病で足を失ってもまだまだ義足を装着して元気に過ごしたい方は体重の維持がとても大切なので、ぜひ体重測定を習慣化していただければと思います。
能動義手のVC(随意閉じ式)の手先具を試しました。上の写真の右側のものです。VCはVoluntary Closingの略です。
今回とある業者さんにお借りして作業療法士とともに試させてもらいました。
左側の写真はVO(随意開き式)で、日本で使われている能動義手フックはこのタイプです。VOはVoluntary Openingの略です。
随意開きとは腕を伸ばす動作(肩甲骨の外転や肩関節の屈曲)でフックが開く構造のことを言います(写真左上の図)。
VC(随意閉じ式)は同じ動作で逆にフックが閉じます。
右側の写真がVCです。これまでVOに慣れ親しんできたこともあり、VC使えるのか?と懐疑的でしたが、実際に模擬義手で作業してみると使い勝手はそう悪くないことが分かりました。
VCの利点は①把持力が強い、②直感的な操作で使えることです。
思いっきりケーブルを張ればそれに比例して把持力が強くなります。
直感的というのは、手を伸ばす動きで手先具が閉じてくれることがユーザーにとって感覚的に理解しやすいということです。
VCの欠点は①閉じをキープしようとすると、手元にあるレバーを健側の手でロックしないといけないということです。
これはつまり両手作業をしている時に途中で作業を中断してロックをかける操作を入れざるを得ないということになります。
しかし、実際試してみて分かったのですが、必ずしもロックをかけてなくても上肢の使い方で閉じをキープできました。
黒い方のVC(Grip prehensors)は細かいものをつまむのに向いていませんでした。茶色い方(Adept prehensors)は細かい物もつまめるので、大人が作業用に使うなら茶色い方が良さそうでした。
ちなみに日本ではVCの手先具は厚労省に認可されたパーツになっていません。
上で紹介した商品は米国TRS社の商品です。
Grip Prehensors - TRS Prosthetics
Adept Prehensors - Adult - TRS Prosthetics
リハビリに使う平行棒は各社から販売されていますが、義足リハに適した平行棒とはどんなものなのでしょうか?
まず義足で歩く場合、義足が地面に擦ってしまわないように気をつける必要があります。
特に大腿義足でこれは大切なことです。
大腿義足歩行では、義足が地面に引っかかると膝折れして簡単に転倒してまうからです。
この図で言うと、遊脚相の左から真ん中にかけての時期です。
そのため、義足長を健側より若干短くすることが多いです。
下腿義足なら健側と同等でもいいですが、大腿義足は健側よりも5mm〜1cm短くします。
足を擦らないようにすることをトゥークリアランスを確保すると言ったりします。
義足リハでは最初、平行棒内でリハビリをスタートします。
先程のクリアランスを確保するという点で考えると、平行棒内はできるだけ平坦な環境にしてあげるべきです。
Did you know if you are a lower mobility patient you may be able to get a #Kenevo through the MPK #NHS Funding? Ask your prosthetist today for a trial. https://t.co/4WA30CrPO8 pic.twitter.com/ILI1GbADee
— Ottobock UK (@ottobockuk) November 21, 2019
↑のような平行棒が理想です。
日本のリハビリ環境は狭いことも多いせいか↓のような平行棒をよく見かけます。
これの何がよくないかと言うと、平行棒内に段差があることです。
この平行棒内で歩行訓練をすると一往復すると4回段差を超えなくてはいけません。初心者の大腿切断者には酷な環境です。
はじめはできるだけ簡単な訓練環境にするのが義足、というかリハビリ全般の基本原則です。
また、このような環境でリハビリをしていると、義足でのつまずきを防ぐために過度に義足長を短くしがちです。
義足長が短過ぎると体幹を側屈させた異常歩行の原因になります。
ちなみに私の勤務先では義足歩行訓練に平行棒内の段差は解消したほうがいいと気づいた時点からこのような段差解消のマットを作ってもらって対応しています。
これの欠点はせっかく持ち運んで移動できる平行棒なのに、移動しにくくなることです。
他の疾患の患者さんたちもいる中で義足の患者さんたちだけの環境を作るのは難しいですが、少しでも工夫できるといいと思います。