義足と義手のリハビリテーション

切断のリハビリテーション医療

認知症がある場合の義足処方

認知症は義足の適応を難しくする要因の一つです。

なぜなら義足を自分で管理する(自己管理)ことができなくなるからです。

ライナーをいつも正しく装着するとか、義足の向きを間違わずに履くとか、認知症の方を見たことがない人には想像がつかないような問題に直面します。

しかし、認知症と言ってもその程度は様々です。

どの程度までの認知症なら義足の処方ができるのか?

はっきりとした指標はないのですが、先日は長谷川式スケール(HDS-R)で18点の方に義足を処方しました。減点項目は見当識、逆唱、物品再生、語想起でした。

分かりやすく言うと、教えたことをすぐに忘れてしまうという症状でした。リハビリ中に指導してその時分かったとなっても、翌日になったら忘れていてもう一度同じことを説明するという状態です。

こうなってくると複雑な手順を身に着けてもらうのは不可能です。そのため、義足を処方するにあたりできるだけシンプルに使ってもらえるような処方の工夫をしました。

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以前に紹介したこともあるこの義足はそのような認知症のある方に処方した義足です。

処方の工夫としては

  • キスキット懸垂
  • 固定膝継手

にしたことです。

キスキット懸垂はピンロック式と違ってピン先がシャトルロックの中に入らない(義足が履けない)というトラブルがありません。

ライナーを履く向きもピンロック式ほどシビアではありません。

キスキット懸垂なら座って義足を装着することができます(ピンロック式は立ち上がって義足を装着します)。

キスキット懸垂の処方例:

gisokutogishu.hatenablog.com

gisokutogishu.hatenablog.com

 

膝継手ですが、認知症のある方が遊動膝継手を使いこなすのは難しいと思います。

遊動膝継手を使いこなすためには身体だけでなく、認知面での能力も要求されるからです。

固定膝継手にしておいたほうが無難です。

 

今回紹介した義足を履いているユーザーさんは固定膝継手ですが、屋外をT杖で一人で歩いています。高齢ですが電車も一人で乗っています。

義足の管理も自分でできています。

先日は本義足を申請してソケット交換をされました。

一度だけ膝継手をロックし忘れて立とうとして転倒したそうですが、今もこのタイプの義足で元気に過ごされています。

 

同じ認知症でも、様々な日常生活場面で介助が必要なくらいの認知症だと、さすがに義足の適応は厳しいと言わざるを得ません。

しかし、家族のサポートがあって義足の着脱を手伝ってくれる、断端の管理をしてくれるといった条件がそろえば適応になってくる場合もあります。

退院後のことも考えつつですが、できるだけ義足が処方できないか可能性を探るというスタンスで切断患者さんを診ていただければと思います。