義足(下腿義足と大腿義足)の懸垂方法についてまとめてみました。
臨床ではこの5つを覚えておきましょう。
ピンロック式(下腿義足、大腿義足)
現在最も普及している懸垂方法です。多くの方に適応がありますが、その取り扱いには注意が必要です。シリコーンライナーの履き方が悪いと、断端にトラブルを起こします。意外と正しく履くことが困難な患者さんも少なくありません。特に高齢で低活動な方には選択しない方がよいと私は考えています。
吸着式(下腿義足、大腿義足)
現在の吸着式義足のほとんどはシールインライナーというシリコーンライナーを使っています。
昔は引き布(断端誘導帯)というものを使って、吸着バルブから布を引き抜いて装着していました(高齢なベテラン義足ユーザーで現在もこれを好まれる方はいます)。
引き布を使って装着する方法は以下のリンク先が分かりやすいのでぜひ御覧ください。大腿義足ユーザーが吸着式ソケットを装着している様子を動画にしてくれています。
義足のコントロール性を重視するなら最も適しているのは吸着式です。
ピンロック式は先端のピンに頼って懸垂するのに対し、吸着式は断端全体がソケットと一体化するからです。
そのため、よりアクティブに生活したい高活動な方は吸着式がいいでしょう。
ただし、切断後初期で断端のボリューム変化が大きい時期に、吸着式はオススメしません。
吸着式はピンロック式に比べてより厳密なフィッティングが要求されます。断端の大きさが変わりやすい切断後初期に吸着式にしてしまうと、義足が脱げてしまうリスクがあります。
仮義足はピンロック式にして、断端の状況が落ち着いてきた本義足の時から吸着式にするのがよいでしょう。
差込式(下腿義足、大腿義足)
大腿義足では、低活動者で手指の力がなくてシリコーンライナーが履けない方や断端の皮膚に何らかのトラブルを抱えていてシリコーンライナーを装着できない方に適応があります。
吊り帯以外にもサスペンションスリーブで義足を懸垂するという方法があります。
下腿義足では断端先端に力がまったく加わらないようにするために、差込式を選択することがあります。
キス懸垂(大腿義足)
キスキットを用いた懸垂方法(通称キス懸垂)はピンロック式の懸垂がうまく使えそうもないけど、差込式にはしたくない症例に向いています。
写真右のキスキット義足はオットーボックのオリジナルのやり方とは少し違っていて、ソケットに穴は開けずに、ソケットに折り返し用の金具を取り付け、そこにベルトを通して折り返すことでベルトを固定する形にしています。
義肢装具士にはオットーボックオリジナルの手法で作ってもらったこともありましたが、あまりよくありませんでした。そのため現在の当院のキスキット義足はすべてこの形式で義肢装具士に作ってもらっています。
カフベルト懸垂(下腿義足)
古いタイプの義足と思われる方もいるかもしれませんが、この懸垂方法は今一度見直されるべきだと思っています。
当院で義足リハビリテーションを行った方の仮義足はカフベルト式かピンロック式のどちらかです。
ピンロック式でいける人はピンロック式を処方しますが、低活動な方には安全性を重視してカフベルトを処方しています。
カフベルトの場合でもシリコーンライナーは処方します。シリコーンライナーは断端を摩擦やせん断力から守る効果があるで、できるだけ使ったほうがいいです。
クッションライナーというものがあるので、これをカフベルトと併用します。
下腿義足のカフベルト式とピンロック式の違いは懸垂の仕組みが違うだけと考えてください。ソケットの形状はどちらもPTBとTSBを合わせたような構造になります(します)。どちらもシリコーンライナーを使います。
臨床で出会う義足の懸垂方法はここに挙げたものを覚えておけば十分かと思います。
少しでも義足に関わる医師、義肢装具士、理学療法士、作業療法士、看護師、MSWのお役に立てれば幸いです。
(2022年9月更新)