義足と義手のリハビリテーション

切断のリハビリテーション医療

上肢切断の手術後は幻肢痛治療のためにも仮義手のリハビリが必要

上肢切断は下肢切断に比べて幻肢痛で苦しむ方が多いです。これはやはり手のほうが足に比べて喪失感が大きいからだろうと思っています(決して上肢切断に比べて下肢切断のほうが障がいが軽いという意味ではありません)。
 
不思議なもので幻肢痛は何かに熱中しているときや寝ているときには感じません。
 
ペンフィールドホムンクルスというのがあって、これは体の各部位からの入力が感覚皮質のどの部分に投射されているかを示したものですが、これを見ると手の範囲が足の範囲よりも明らかに広いということが分かります。

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私は切断後の患者さんたちが幻肢痛を克服していく過程を見てきました。反対にずっと幻肢痛で苦しみ続けている人の姿も見てきました。
 
両者の違いを考えてみると、一番大きな違いは自分の身体に起きてしまった障がいをいかに受け入れているかだと思います。「どうしてこんな目に遭ってしまったんだろう」「なんで私の手はないんだろう」など、失ってしまったことばかりネガティブに考えているとなかなか幻肢痛は良くなりません。
 
逆に「起きてしまったことは仕方がない」、「片手でもこんなにできる」、「義手があればこんなにできる」、「なんでもやってみよう」という気持ちになれると幻肢痛は楽になります。完全に消えなかったとしても幻肢痛が気にならなくなり、薬も必要なくなります。
 
幻肢痛を克服する一番のカギは”障がいの受容”だと思います。いかに自分に起きてしまった障がいを受け入れるか。そのために大事な期間として仮義手のリハビリテーション入院の期間があると思っています。
 
というのも、仮義手のリハビリテーション入院を経験し、今も私の義手外来に通院している患者さんたちは幻肢痛で苦しみ続けている人が少ないからです。義手のリハビリテーションというのは、義手を使って一つでも自分でできることを身につけるというものなので、この期間がこれから先の人生を前向きに捉えるチャンスになっています。上肢切断のことに詳しいスタッフと話をして不安を取り除いてもらうこと、通院してきた先輩の患者さんと話をして共感してもらうこと、これらも患者さんの気持ちにとってプラスに働きます。
 
これが始めから義手なしで退院、となってしまうと、いきなり社会生活で失ったことを目の前に突きつけられることになり、心が受けるダメージも悪化してしまいます。それとともに幻肢痛も悪化します。
 
ですので、上肢切断術後はくれぐれも仮義手のリハビリテーションを経験していただきたいと思います。できれば入院のほうがよいです。焦ってはいけません。障がいを受容する過程は時間がかかるものです。