義足と義手のリハビリテーション

切断のリハビリテーション医療

義足リハの難易度とどこでリハビリするかについて

下腿義足 < 大腿義足 < 両下腿義足 < 股義足 << 両大腿義足 *1

私見ですが、このように考えています。どの切断レベルも主治医としてリハビリテーション入院を担当したことがあった上での見解です。

難易度ごとにどのようなリハ施設でリハビリをやった方がいいかが変わります。

中でも難しい股義足、両大腿義足は義足リハの経験が豊富にある施設でリハビリをやったほうがいいです。経験のない施設はできれば手を出さない方がいいでしょう。近くにそのような施設がなければ転院して入院中だけお世話になるという手もあります。

大腿義足と両下腿義足もやや難易度高いのでできたら義足リハが得意な施設でリハビリをやったほうがいいですが、頑張れば経験の浅い施設でも仕上げることができるかもしれません。しかし、理学療法士義肢装具士が密に連携を取り合う体制が必要です。

下腿義足はその他の切断レベルよりも数が多いので、できれば近隣の回復期リハ病院でも仕上げられるようになってほしいと思います。そのための情報発信を私はしています。義足が好きな理学療法士がいて、その熱意に答えてくれる義肢装具士がいれば何とかなるでしょう。患者さんにとっては担当の理学療法士義肢装具士が頼りですので、ぜひ他の施設に負けない仕上がりになるよう頑張ってほしいと思います。

どの切断レベルであっても医師の関与が与える影響は少なくありません。患者さんの受け入れに関わることも多いでしょうし、医師に熱意があってなんとかしたいという思いがあれば、義足が得意な回復期リハビリテーション病棟を作ることも不可能ではないと思います。

*1:同じ切断レベルでも断端が極端に短かったり、断端の皮膚の状態が悪かったり、残った健側の足に障害があったりすると難易度は変わります。

若手リハ医の義肢装具勉強法 見積もりの活用

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病院で勤務しているリハ医は少なからず義肢装具を処方する機会があると思います。

義肢でも装具でもどちらでもいいのですが、病院で義肢装具を処方する場合、医師がオーダーし、義肢装具士が採型や採寸をし、その上で義肢装具士が患者さんに現物を納めていると思います。

義肢装具士は患者さんから義肢装具の製作にかかる費用を受け取りますが、その際に義肢装具士はその義肢装具の見積もりを患者さんに説明し、手渡しています。

若いリハ医の先生におすすめなのは、この見積もりを確認することです。自分で処方した義肢装具の内容を知っておくのは当然と言えば当然のことです。

最初はよく分からないと思いますので、書いてある内容を自分で調べる、または義肢装具士さんに聞いて勉強することをおすすめします。

これを毎回繰り返していると義肢装具の理解が深まります。分かってくると、よりおもしろくなると思います。

仮義足のリハビリでは義足にスライドアダプターを組み込むことをおすすめします

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仮義足リハの現場では理学療法士が義足のアライメント調整をしなければならないことも多いと思います。

アライメントは角度だけで全て調整しようとすると難しい(特に苦手な人はここで挫折します)ので、スライドアダプターを活用した方がいいです。

義肢装具士さんにスライドアダプターを組み込んだ義足を作ってもらいましょう(設置スペースの関係でスライドアダプターが入らない場合もあります)。

スライドアダプターを入れることでソケットを前後左右に動かすことができるようになるのでアライメントの調整がしやすくなります。

義肢装具士は仮義足のリハビリ中にアライメントを最終検討し、完成品の仮義足製作に生かすことができます(ソケットの設置角度、シャトルロックやラミネーションアンカーの取り付け位置等)。

シリコーンライナーの手入れ 使用する石鹸について

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シリコーンライナーは毎日洗いましょう。

毎日洗うのは皮膚に接するツルツルの面です。

皆さん下着は毎日洗いますよね?それと一緒です。

汚れをきちんと落とすために石鹸を使って洗います。

石鹸はオズール社は弱酸性を、オットーボック社は中性のものを推奨しています。

当院では弱酸性ビオレを使って洗ってもらっています。オットーボック社には弱酸性の石鹸でも問題ないことを確認済みです。

そもそも人間の身体に使う程度のpHであれば、酸性やアルカリ性であってもライナーを傷めることはないのでは?と思いますがどうなんでしょう。メーカーさんの話を聞いてみたいところです。

義足ライナー | Ottobock JP

https://media.ossur.com/image/upload/v1617788066/product-documents/global/PN20016/IFUS/PN20016_Iceross_Sport_Locking.pdf

下腿義足ソケットの分類

下腿義足ソケットの種類についてまとめました。

下腿義足のソケットは、体重支持方法で分類するか、懸垂方法で分類するか、分けて考えるとよいです。この二つをごっちゃにして考えると頭の中が混乱します。

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そしてこの体重支持方法と懸垂方法はお互い重なり合います。

例えばTSB式かつピンロックというパターンもあれば、PTB式かつピンロックというパターンもあります。

PTS式やKBM式は現在ではほとんどお目にかからないソケットです。

体重支持方法でTSB式なのかPTB式なのかは作り手である義肢装具士に言わせると、どちらかに分けられるものではなく、両者のいいところを取ったPTSB式なのだそうです。 

仮義足で吸着式ソケットは避けた方が無難

吸着式は断端と義足の一体化を考える上で一番理想的な懸垂方法です。

大腿義足であっても下腿義足であってもそうです。

しかし、仮義足でこの懸垂方法はおすすめしません。

なぜなら仮義足の時期は断端の大きさが刻一刻と変わる(成熟する)からです。

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吸着式ソケットは適合が甘いと義足が脱げてしまうのが欠点です。

歩いている途中に義足が脱げてしまったら大惨事につながりますよね。

断端とソケットの適合がシビアなのが吸着式ソケットなのです。

そのため、断端の大きさが変わり続ける仮義足のタイミングではリスクが高くおすすめできない、というわけです。

吸着式ソケットにするなら断端の状態が落ち着いてきた本義足からがいいでしょう。

 

義足の懸垂方法についての解説はこちらをどうぞ。

gisokutogishu.hatenablog.com

高齢者の大腿義足に吸着式ソケットが適さない理由

吸着式は断端と義足の一体感が他の懸垂方法より優れているので、うまくいけばこの懸垂方法がいちばんいいです。

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吸着式のソケットは図のようにバルブが付いているのが特徴です。ここから空気が排出されて断端とソケットが一体化する仕組みになっています。

しかし、これは高齢者に向きません。

その理由について説明します。

 

第一に、吸着式ソケットは装着するときに義足側にしっかりと体重をかけてバルブから空気を排出しなければいけません。

これには片足で立てる能力とバランス能力が必要です。

高齢者にとってこれは簡単なことではありません。

 

第二に、吸着式ソケットはライナーを介して断端とソケットを吸着させるわけですが、そのためには断端の筋肉が豊富な方が有利です。

高齢になると筋肉の量が減ります。

極端に言うとしわしわの断端だとソケットに吸着させづらいのです。イメージできますでしょうか。

私はライナーを用いた吸着式ソケットを使っていた方が歳とともにソケットに吸着させづらくなってピンロック式に切り替えた症例を数例経験しています。

 

以上、高齢者に吸着式ソケットが適さない理由でした。参考になれば幸いです。

 

義足の懸垂方法にについてはこちら参考にしてみてください。

gisokutogishu.hatenablog.com