義足と義手のリハビリテーション

切断のリハビリテーション医療

義足は儲からない

私は自分が処方した義肢・装具は義肢装具士さんにお願いして見積もりを確認させてもらうようにしています。

それを見るとなかなか厳しい現実が見えてきて、義足のチェックソケットを何度も作り直すようなお願いはできないなと思います。何回作ってもチェックソケット代は45,400円(材料費込)です。

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これは一般的な下腿義足(仮義足)の見積もりです。

義肢装具の値段はAの部分に書かれている技術料プラス材料費の部分と、Bのパーツ代の2つに分かれるのですが、いずれの値段も厚生労働省で定められているので勝手に変えることはできません。

Bのパーツ代などはメーカーから仕入れるわけですが、ほとんど利益が出ない部分と聞きます。コンピュータ制御パーツのような高いパーツを入れても、メーカーは儲かるけど義肢装具士は儲からないそうです(義肢装具士の方、間違っていたら教えて下さい)。

なぜ義足が儲からないのか

義足は高額だと言われます。たしかに上の見積もりを見ると50万円もします(50万円は下腿義足にしては標準的な価格です)。

しかし、実はそのうち義肢装具士さんの利益になる部分は意外と少ないのです。

しかも例えば下腿義足の仮義足の場合、2〜3ヶ月かけてこの利益です。

処方件数が少ない割に手間と時間はかかる。

これでは「義足だけでは飯は食っていけない」と言われても仕方ありません。

処方件数が多くて、短期間で作り直すような義肢装具、例えばインソールやコルセットを作っていたほうがよほど義肢装具製作会社の経営は安定するというわけです。

何が問題なのか

実は義足が儲からないせいで、義足の作り手である義肢装具士さんたちから敬遠されているという悲しい現実があります。複数の義肢装具士さんから聞きました。

これは個々の義肢装具士さんが悪いわけではありません。厚生労働省による値付けの問題だと思います。

作るのに時間がかかって、作る手間もかかる義肢装具には相応の値付けをしてあげないとこれからますます義肢装具士さんに、特に小さな義肢装具製作会社には義足を敬遠されてしまうでしょう。

義足をやりたくて義肢装具士になったけど、義足では食べていけないから義足はやれないんですという現状は本当に悲しいことだと思います。

これでは義足作りの技術も発展しづらくなってしまいます。

何度も言いますが、これは個々の義肢装具士さんが悪いわけではありません。義肢装具業界全体で声を上げて制度を変えていかなければいけないことだと思います。

 

今、私が取り組んでいる仮義足製作前にキャストソケットを活用する方法は、このコスト問題への一つの対策でもあります。チェックソケットを何個も作ることは材料費だけでなく作るための人件費がかかり義肢装具士さんに負担を強いてしまいます。この現実は病院のスタッフの方々に知っておいてほしいことです。

キャストソケットごときでは大したコスト削減にはならいないかもしれませんが、少しでも義肢装具士さんに参入してもらいやすくなればという淡い期待があったりします。

 

ちなみに義足代がいくらになっても病院の収益にはまったく関係ないです。あくまで代金は患者さんと義肢装具士の間でのやり取りになるからです。

 

今日の話は義手の場合もまったく同じことが言えます。他にも似たような問題を抱えた義肢装具はきっとあるんでしょうね。