義足と義手のリハビリテーション

切断のリハビリテーション医療

義足・義手パーツ支給における労災と手帳の違い

義足・義手ユーザーの中で「労災の人は欲しいパーツが手に入っていいよね」という声はよく聞かれるところです。

一方、手帳(障害者総合支援法に基づく支給)の人、つまり労災以外の人で病気や事故により足を失くされた人は欲しいと思っても必ずしもそのパーツが手に入るとは限りません。

例えば高額パーツであるコンピュータ制御の膝継手がありますが、これは手帳の人だとめったに認めてもらえません。

仕事の内容によりどうしてもコンピュータ制御膝継手じゃないとダメだとか、両側の大腿切断のためどうしても必要だとかそのような理由があると認めてもらえるケースもあります。

しかし、片側の大腿切断だけだと支給してもらうことは通常は難しいと考えておいたほうがいいでしょう。

行政側の言い分としては限られた予算を他の障がい者の方々と分け合わなければならないので、義足ユーザーにだけ高額なパーツを支給するわけにはいかないという理由があるようです。

ただし、障がいの状態によってはどうしてもコンピュータ制御膝継手じゃなきゃダメという場合もあるでしょうからその場合は個別に判断しますという対応が取られます。

ではその個別の判断はどこでするのでしょうか?

身体障害者更生相談所

それは各自治体にある身体障害者更生相談所というところで行われます。

www.rehab.go.jp

そこに医師や義肢装具士理学療法士などがいて判断しています。

ここではユーザーに必要なパーツをできるだけコストを抑えて揃えるという考えのもと支給内容が決められています。同じようなパーツが2つあったら安い方が選ばれます。

私はこのコストを抑えてという考え方は必要な考え方だと思っています。公費での支給は必要最小限という考え方がなければ日本の障害者福祉はつぶれてしまうでしょう。更生相談所は障害者福祉を守ってくれているとも言えます。

しかし、だからこそ更生相談所には必要なパーツの判断をきちんとしてほしいと思います(一律に高額なパーツを支給してほしいという意味ではありません)。義足・義手の知識が少ない医師、理学療法士義肢装具士が更生相談所にいると、ここの判断を誤ることになり必要なパーツがユーザーに届かなくなってしまいます。

更生相談所のスタッフの方々は大変だと思います。義足や義手だけでなく、車椅子や装具などあらゆる補装具の判定を行ってますから。

私は更生相談所の医師ではないので、本義足のパーツを最終決定できる立場にありません。しかし、仮義足から診ている患者さんに関しては本義足支給のときに必要なパーツを手に入れるためのアドバイスをすることはよくあります(それが必ずしも通るとはか限りませんが)。

更生相談所のスタッフに支給内容を決める権限があるので、自治体ごとに支給内容が変わるという現実もあります。たとえば東京都と埼玉県では支給基準が違うみたいなことです。

労災と手帳の違い

労災の場合はこの更生相談所というものが存在しません。

そのため、申請されてきたものは完成用部品といって、厚生労働省が認めた部品を使っていれば基本的に支給されます。だからコンピュータ制御膝継手や筋電義手など高額なパーツでも支給してもらえるのです。

日本の労災保険はそれだけ手厚いという言い方もできるかもしれません。

ちなみに労災と手帳はどちらも厚生労働省の管轄ですが、それらは縦割り行政の中で運営されているので横のつながりがありません。

ですから労災の事例でこうだからとか、逆に手帳の事例でこうだから、のように管轄を越えてそれぞれの事例を参考にした判断は基本的にしてもらえません(これは私が実際に経験したことです)。そもそも労災には更生相談所がないので事例ごとに判断する場がないのです。

ここで注意点です。労災だと基本的に完成用部品であれば支給されると書きました。しかし、これは裏を返すと完成用部品として認められていなければ支給されないということです。

手帳の場合は特例補装具という制度があって、完成用部品でなくても本当に必要なものであれば更生相談所で検討の上、支給してくれることがあります。

労災では更生相談所がないために、この検討がしてもらえません(これは実際に私が経験したことです)。労災は有利なことばかりのように見えますが、不利な点もあるのです。

世の中には完成用部品では対応できないような障がいを持たれる方がいます。私はそのような労災の方を診療したことがあります。今も診療しています。

 

最後少し話が逸れました。今回は義足・義手パーツ支給における労災と手帳の違いの話でした。参考になれば。