義足と義手のリハビリテーション

切断のリハビリテーション医療

断端神経腫による痛み治療のための手術手技RPNI(Regenerative Peripheral Nerve Interface)

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切断術後の神経腫による痛みは50%〜80%に生じていると言われているが、有効な治療法はない。著者らは神経腫の治療としてRegenerative peripheral nerve interface(RPNI)と呼ばれる外科治療を開発した。この手技はもともと筋電義手のコントロールのために神経を筋肉に縫合するところから始まった手技であるが、著者らは神経腫の痛みの治療や、神経腫による痛み予防の手技として有用なものであることを発見した。

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<実際の手技>

A. 神経腫の同定

B. 坐骨神経のような太い神経はいくつかの束にスプリットする。

C. 筋線維方向に縦3cm〜4cm、横1.5cm〜2cm、厚さ5mm〜6mmの大きさで筋肉のフリーグラフトを近くの筋肉から取ってくる。これは断端側でも切断側であってもよい。取ってきた筋肉上で筋線維の方向と同じ方向に神経を載せて、6−0ナイロンで神経上膜と筋肉を縫合する。さらに筋肉でくるんで筋肉同士を縫合する。

 

筋肉のフリーグラフト内で神経支配が始まり、神経腫ができるのを防ぐことができる。

この手技はTMR(Targeted muscle reinnervation)とは違い、神経をつなぐわけではないので顕微鏡下で手術しなくてもよく、簡便である。

RPNIのエビデンスだが、動物実験レベルでは筋肉のフリーグラフト内での神経支配や血流支配が確認されていて、軸索の延長と神経筋接合部の形成が確認されている。また、動物実験レベルではRPNIを行った場合、神経腫が形成されなかったことも確認されている。

著者らはRPNIは神経腫による痛みをなくすと考えてきたが、幻肢痛の改善にも有効なのではないかと考えている。(WooSL,KungTA,BrownDL,LeonardJA,Kelly BM, Cederna PS. Regenerative peripheral nerve interfaces for the treatment of postamputation neuroma pain. Plast Reconstr Surg Glob Open. 2016; 4(12):e1038.)

これまでに50症例181部位に切断術の際に予防的にRPNIを行っているが、術後1年で有症状の神経腫をきたした症例はなかった。(KubiakCA,KempSWP,CedernaPS,KungTA. Prophylactic regenerative peripheral nerve interfaces for the mitigation of neuroma pain and phantom limb pain [abstract P26] [published online May 1, 2017]. Plast Reconstr Surg Glob Open. 2017;5 (4)(suppl):120-130. doi:10.1097/01.GOX .0000516683.29865.06)

この手技はまだまだ全世界の外科医に知られていないが、これから標準的な手技になると著者らは考えている。著者らの施設では形成外科医、整形外科医、血管外科医、外傷医等、切断や神経損傷に関わるすべての医師にとって標準的な手技となった。RPNIは追加の金銭的、時間的コストも発生せず、手技も簡単であるため、神経腫治療のためにより多くの人々に知られることが期待される。

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

Genium(ジニウム)のイールディング機構は膝折れによる転倒を防ぐ

コンピュータ制御膝継手Geniumジニウムイールディング機構が膝折れを防いでくれている様子です。

youtu.be

何がすごいのか分かりづらいかもしれませんね。

イールディングが効いて膝がジワッと曲がるために、反対側の右足を付く時間があり、膝折れによる転倒を防いでくれているんです。

イールディングという機能は、健常者の動きで言うと大腿四頭筋の遠心性収縮に相当します。

健常の膝では、歩いていて急に止まると、勢いのまま膝が折れないようにグッと大腿四頭筋に力が入り、ガクッと膝が折れてしまうのを防いでいます。

この機能の代わりをするのがイールディング機構なのです。

コンピュータ制御のイールディング機構はどんな場面にも対応できるダイナミックな動きを可能にしてくれます。

非コンピュータ制御の通常の機械式膝継手だと、普通のユーザーはこの動きで膝がスコッと折れてしまい、正座するような格好で転倒してしまいます。

達人的に膝継ぎ手の使い方がうまい義足ユーザーさんは非コンピュータ制御の膝継ぎ手でも様々なことができます。

※ユーザーさんの許可を得てアップしています。

義足ユーザーの体重管理

あいかわらず義足ユーザーの体重管理は義足を快適に履き続けるために大切だなあと思うことが多いので記事にしておきたいと思います。

義足ユーザーの断端体重の影響を大きく受けます。

体重が増えれば断端は大きくなるし、体重が減れば断端は小さくなります。

一律に太ったらダメと言っているわけではありません。

大事なことは義足が履ける程度に自分自身で体重をコントロールするということです。

フィッティングのよい義足を作ることは義肢装具士の仕事ですが、いったん自分に合った義足を提供してもらったらそれを長く履き続けるために自身の体をコントロールすることはユーザーの仕事です。

義足はユーザーの変化に合わせてくれませんから、ユーザーが義足に合わせる必要があるということです。

とはいえ体重が一定だったとしても、だんだん義足のソケットというものは合わなくなってくるものです。

断端が痩せて形状が変わることを「断端が成熟する」と言います。

その場合は義足を作り直すしかありません。

幸い日本には補装具費支給制度という福祉制度が存在します。

合わなくなってきたら断端に傷ができますので、深手を負わないうちに義足を作り直すことをおすすめします。

【下腿義足】RAを合併した高齢者の下腿義足

関節リウマチ(RA)、糖尿病、ASOを合併した高齢患者さんの下腿義足の処方例です。

活動レベル*1はK1で超低活動です。

回復期リハ病棟入院までに要した期間も長く、廃用が著しく進んでいました。

RAによる健側下肢の関節変形もリハビリのネックとなっていました。

RAのように関節痛のある疾患を合併していると、リハを強化したくてもできずジレンマに陥りますね。

現実的なゴールは屋内を歩行車歩行もしくはつたい歩きで、屋外は車椅子で移動することでした。

それでも最終的に患者さんに「前の病院ではもう歩けないと言われていたのに少しでも歩けるようになって、ここに来てよかったです」と言っていただけたことが私としては嬉しくてとても印象に残っています。

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処方のポイントです。

関節リウマチで手にも障がいがあったため、PTBカフベルト懸垂クッションライナーの組み合わせにしています。

膝関節が外反変形していたため、外転角をつけています(角度のアライメント調整)。

スライダーを入れて、荷重線が落ちる位置の微調整(前額面のアライメント調整)に活用しました。

バランスをとるのが難しい方だったため、あえて足部はダイナミックフットといって、サッチフットの一種を選択しています。超低活動でバランスの悪い方には足元が不安定になるのでエネルギー蓄積型足部はおすすめしません。

両側前腕切断者がどうやって筋電義手を装着するのか参考になる動画


Bilateral Arm Amputee Putting On Their Prostheses Without Help

上肢切断の患者さんを担当する可能性がある義肢装具士作業療法士、リハ医の皆さんに見てもらいたい動画です。

両側の上肢切断者は片側に比べて格段に大変なことが多くなります。つまり一人でできることが少なくなります。

両側の前腕切断であれば、義手を活用することで多くのことができるようになります。

両側上腕切断になると話は変わってきて難易度はかなり上がります。

両側肩離断は最高レベルに難易度が高いです。

両側前腕切断の場合の義手両側とも筋電義手もしくは片側筋電義手でもう片側は能動義手の組み合わせのどちらかが理想です。

義手を使うにあたり、どうやって一人で装着するか、ということが乗り越えなければならない壁の一つです。

今回ご紹介した動画はその壁を乗り越えるために役立つ動画だと思います。

能動義手であればそれほど厳密な適合(フィッティング)が必要ないので、差し込み式にしてもいいかと思います。

筋電義手は電極を反応させるために厳密な適合が必要です。そのため吸着式を併用するまた場合があります。

動画の義手ソケットの懸垂方法は顆上支持式+吸着式です。

肘頭の部分を大きくくり抜いてるので顆上支持の懸垂力では足りず、吸着式を併用することになったのではないかと推測します。

肘周りの拘束感が減るのはユーザーにとってメリット大きいです。

断端をソケットに吸着させるためには道具が必要です。通常、以下のような装着用ツールを使います。引き布(断端誘導帯)と言います。

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こちらはオットーボックの製品です。

これじゃなくても女性用のストッキングでも同じように吸着させることができます。安いしすぐに手に入るので、臨床ではしばしば使います。

動画の男性は非常に上手に筋電義手を装着されています。ユーザーさんの努力だけでなく、作り手である義肢装具士さんの努力や工夫もすばらしいと思います。

【義足処方例】両下肢切断(大腿切断と下腿切断)K1レベル(超低活動)

義足処方例シリーズです。

今回は低活動両下肢切断(大腿切断と下腿切断)用の義足についての解説です。

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あくまで一例です。これだけが正解というわけではありません。

血管原性の切断です。もともと右大腿切断でしたが、しばらくして病状の悪化により左下腿切断になられました。

下腿義足について

皮膚の脆弱性があったため、シリコーンライナーはコポリマーライナーを選択しています。

懸垂方法は血管原性かつ低活動向きのPTBカフベルト懸垂です。

足部は低活動者向け1C11テリオンソフトを選択しています。

大腿義足について

キャストソケットとチェックソケットの間は四辺形ソケットでしたが、座位時間が長いことを考慮して最終的な仮義足ではIRCソケットに変更しています。

懸垂方法は低活動者に向いているキスキットにしています。

膝継手はこのような両側切断症例で低活動な場合はシッティングアシスト付き固定膝継手がいいですね。油圧の抵抗を利用してゆっくり座れる機能は重宝します。

今回は片方が仮義足でもう片方が手帳を使っての本義足だったため行政とのやりとりに苦労しました。判定に行けない旨やソケット交換だけでなく新規で丸ごと一本ではダメなのか等々、自治体の方と電話でやりとりしました。

 

両下肢切断の場合、義足長(身長)の設定はとても大事です。元の身長の−5cmくらいにするのがよいと思っています。身長が高いとバランスをとりづらくなるからです。椅子からの立ち上がりを考慮した下腿長の設定にしてあげるのも大事なことです。

それから靴ですが、今回のような症例には屋内と屋外で同じ靴を用意してもらったほうがいいです。超低活動な方になると靴を変えたことで起きる微妙なアライメント変化に対応できず転倒につながってしまいますので。

 

両下肢切断で低活動で義足の適応なしと判断されることもあろうかという症例ですが、このような方々にも義足が提供されるといいなと思います。

実際の生活では自宅の中を義足を装着して歩行器を使って歩く、トイレに行く、食事の準備をする等がこの方ができるようになったことです(限定された場面での歩行)。屋外の移動は車いすです。

少しでも歩けるというのは人としての尊厳を保つ意味でも重要なことだと思います。そこをできるだけサポートしてあげたいというのが義肢好きリハ医としての気持ちです。

左右どちらの義足も私が処方、支給に関わったものです。いつもそうですが、今回の義足も私と志を同じくする義肢装具士さんに作ってもらっています。

【用語】電子制御膝継手 コンピュータ制御膝継手

用語についての解説です。

ジニウムやC-Legといったコンピュータ制御の膝継手を電子制御膝継手と言います。

電子制御膝継手はコンピュータ制御膝継手とも呼ばれます。

似た言葉に電動膝継手というものがありますが、これは電子制御膝継手と区別して使わなければいけません。電動膝継手は電子制御膝継手にアシスト機能(動力補助)が付いたもののことを指します。

電子制御膝継手を英訳するとmicroprocessor-controlled prosthetic knee (MPK)です。

電動膝継手はpowered kneeです。

MPKに対する言葉としてnon-microprocessor-controlled prosthetic knee (NMPK)というものがあります。これは従来から普及している3R106, 3R60, 3R80, トータルニーといった膝継手のことで、機械式膝継手 mechanical kneeとも呼ばれます。

www.amputee-coalition.org

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