義足と義手のリハビリテーション

切断のリハビリテーション医療

高活動者向け大腿義足処方例と大腿義足ソケットの処方方針

最近の大腿義足の処方例です。

切断原因は労災事故による外傷です。

仮義足(訓練用仮義足)になります。

K4レベルの患者さんだったため、処方内容は高活動者向けの構成になっています。

切断後初期のボリューム変化の影響を考慮してこれまで仮義足のソケットは基本的に四辺形ソケットにしていましたが、最近はいろいろな方の意見を踏まえて考え方を少し変えました。

  1. キャストソケット義足は四辺形ソケット
  2. チェックソケット義足でIRCソケット(症例により可能なら)
  3. 仮義足もIRCソケット

という方針に変更し、仮義足のソケットは可能であればIRCソケットにすることにしました。しばらくこの新しい方針で行きたいと思います。

修正キス懸垂

大腿義足の懸垂方法の一つであるキス懸垂について解説します。

キス懸垂は懸垂方法の形式としてはピンロック式と同じ遠位固定型に分類されます。

キスはKeep it simple suspensionの頭文字を取ったものです

KISS-Suspension KISS-Suspension prosthetic limb suspension by KISS Technologies LLC

オットーボック社のキスキットを使うことが多いので、キス懸垂と呼んでいます。

本来このキス懸垂は一般名であるランヤード懸垂(ひも、ストラップ懸垂)と呼ぶべきなのですが、ランヤード懸垂という言葉が日本では定着していないので、とりあえずキス懸垂と呼んでいます。

キス懸垂に使うキスキットはオットーボックのWebサイトにあるような物を使います。ライナーの遠位と近位にストラップを取り付けて、そのストラップ同士をソケット上で折り返して固定するという風にして使います。

近位に取り付けたストラップに注目してください。これがあることで近位にもソケットに穴を開けないといけないですし、ライナーの布地は痛めるし、断端袋は履けないしであまりいいことがありません。

そのため、私のところではキスキットの一部を利用した以下のようなランヤード懸垂を採用しています。

ライナーの先にキスキット用のストラップを取り付けます。ソケット前面下部に開けた穴にストラップを通して、そのストラップを近位まで引っ張ってきて、ソケット近位に取り付けたカンで折り返してベルクロで固定します。これなら本来のキスキットを用いた懸垂方法で起きる問題は生じません。

今までこの懸垂方法をキス懸垂と呼んでいたのですが、本来のキスキットを用いた懸垂方法と紛らわしいので、区別するために”修正キス懸垂”と呼ぶことにします。

ランヤード懸垂という用語がもっと広まってくれるといいのですが。普及に努めます。

大腿義足のターンテーブル

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ターンテーブル

大腿義足にはターンテーブルというパーツを入れることが多いです。英語ではlocking positional rotatorと言います。

ターンテーブルは右の写真のように義足の下腿を180度回転させて上下逆さまにできるパーツです。

これがあると靴を脱ぎ履きしやすくなります。日本は屋内で靴を脱ぐ習慣があるため、このパーツが重宝されます。

断端が長い場合はこのパーツを入れるだけのスペースがなくなるのでご注意ください。

スペース的にこのパーツが入るのであれば、多くの大腿義足にはこのターンテーブルを入れていると思います。

もちろん股義足にも入れます。

www.ottobock.co.jp

パラ陸上のT63クラス(大腿切断含む)では膝離断の選手が有利

大腿義足の人がパラリンピックに出る場合、クラス分けでT63に分類されます。

このT63というクラスは大腿切断の他に、膝離断や股離断の選手も含まれます。

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https://jaafd.org/pdf/top/classwake_qa_rr.pdf

パラスポーツのクラス分けはどこかで線引きしないといけないのでそう単純な話ではないのですが、膝離断と大腿切断と股離断が一緒にされているのには違和感を感じます。

股離断は圧倒的に走るのに不利ですし、膝離断と大腿切断を比べると膝離断の方が有利です。

現に先日の東京2020パラリンピックのT63クラス100m女子では膝離断の選手が上位を独占していました。

 
 
 
 
 
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膝離断がなぜ大腿切断より有利か解説すると、

  1. 断端末で荷重できるため、ソケットを深くしなくて済む(坐骨を収納しなくて済む)。上の写真のようにソケットの上縁が股にかからないので、股関節周りがスッキリして走りやすいです。
  2. 断端末で荷重できた方が義足に力を伝えやすいです。
  3. 断端と接するソケットの面積が広いので、断端とソケットが適合しやすいこともあると思います。

以上の点から走ることに関しては膝離断の方が大腿切断より有利と考えられます。

このクラス分けルールが続く限り、各国はT63で勝つために膝離断の選手を積極的にリクルートするんじゃないでしょうか(推測です)。

男子T63の山本篤選手は大腿切断なのにあれだけの成績を残せていて本当にすごいと思います。

ちなみに糖尿病やASOといった血管原性の切断で膝離断がいいかどうかは議論の余地があると思います。

そもそもその術式で傷が閉じるのかということや、膝の高さが左右でアンバランスになることのデメリットもあるからです。

足関節・足部における「外がえしと内がえし」および「回外と回内」の定義

日本整形外科学会、日本リハビリテーション医学会、日本足の外科学会の3学会によるワーキンググループから、足関節・足部における「外がえしと内がえし」および「回外と回内」の定義が発表されました。2022年4月1日から正式に発効となる予定です。

外がえしと内がえし

外がえしeversion/内がえしinversion

足関節・足部に関する前額面の運動で、足底が外方を向く動きが外がえし、足底が内方を向く動きが内がえしである。

回外と回内

回外supination/回内pronation

底屈, 内転, 内がえしからなる複合運動が回外、背屈,外転,外がえしからなる複合運動が回内である。

 

海外の定義に合わせた改訂です。しばしば混乱を生じていた用語なので改訂されてよかったと思います。

【用語】主「動」筋なのか主「働」筋なのか

筋肉はその働きから2種類に分けられます。

主動筋

主動作筋(しゅどうさきん)とは、筋肉運動の際に主となる筋肉のことである。主動筋(しゅどうきん)、主力筋(しゅりょくきん)、アゴニスト(英agonist)と呼ばれる。

主動作筋 - Wikipedia

拮抗筋

拮抗筋(きっこうきん)とは、筋肉運動の際に反対の動きをする筋肉のことである。アンタゴニスト(英: antagonist)と呼ばれる。

拮抗筋 - Wikipedia

これらの働きについては日本パワーリフティング協会のページが分かりやすいです。

筋肉の機能|主働筋と拮抗筋の関係と主な筋肉の一覧

それで、タイトルの主"動"筋なのか主"働"筋なのかについてです。

ネット上には2種類とも存在しています。

"働"くという単語を使うと動作という意味が出てより適切なのかと思ったのですが、違う答えが見つかりました。

日本整形学会の用語集によると、、、主動筋だそうです。

はっきり言ってどちらでもいい、というのが一般的な答えになるかもしれませんが、公の文章などではできるだけ正しい用語を使ったほうがいいかと思います。

少なくとも整形外科関連の学会などでは主"動"筋を使った方がよさそうです。

切断術後の断端末にできる水疱の原因と対処法

義足ユーザーの断端の末端に水疱ができるトラブルは割とよくありますが、その原因のほとんどは

  1. ライナー(シリコーンライナー)が正しく履けてない
  2. 体重が増えたことでライナーがきつくなった

です。

水疱ができたら原因を取り除き、治るまでは無理をしない(歩きすぎない)ことです。

 

ライナーの正しい履き方というのは、

  1. ライナーを完全にひっくり返し、
  2. ピンの向きを正しく合わせ、
  3. ライナーの底と断端末をピッタリくっつけてロールオンする

というものです。

 

断端に傷ができたら病院を受診するだけでなく、義肢装具士さんにも見てもらうことが大切です。

義足と断端の間で問題が起きてるから傷ができるわけで、その原因を解決できるのは義肢装具士さんです。

原因を解決しないと傷はなかなか良くなりません。